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健康コラム

くも膜下出血から奇跡の生還を果たし、リハビリを続けながら執筆活動を行うコラムニスト・神足裕司が日常をつづっていきます。

入社式


先日、焼肉を食べに行った。人気の店で予約しないとかなり待つ。店は満席だ。
娘のリクエストで入社の祝いの席である。にぎやかな店の中。今日は特別なお祝いの席の家族が多いような気がした。

我が家もおじいちゃん、おばあちゃん、娘と息子それに妻とボクの6人。隣の席にも6人連れの家族らしき人が座っている。小さな女の子にそのおとうさん、おかあさん、おじいちゃんにおばあちゃん、それに赤ちゃん。おばあちゃんが言った。「じゃ、乾杯ね。明日から幼稚園楽しんでね」そうか、あのちいさな女の子が入園するのだな。

我が家もそれについで乾杯だ。「おめでとう。これからの道はちょっと困難かもしれない。でも自分で切り開いていって欲しい。君ならきっとできる。いつも見守っているから」そう言いたかった。

成人式のときよりも「これからは・・」という気持ちになる。親から巣立って独立した個人として歩んでいく。何かの時には相談にも乗ろう。けれどまさしく巣立ちのときと思うのだ。

我が家は、娘が高2のときにボクが発病してしまったので経済的にも精神的にも苦労をかけた。小遣いも学校で必要なものもほとんど自分のバイトで稼いできた。そしてよく勉強していた。兄弟で助け合ってくれた。

だから、そういう意味では何が変わるわけでもないのかもしれない。ボクが学生のときのようにぐうたらな大学生ではなかったように思う。今の学生はまじめだ。

そんなまじめな若者だからこそ社会に出てちゃんとやっていけるのかちょっと不安に思う。いや、自分の子どもだからかもしれない。でもそんな真面目な彼女だからこそ、日本を変える力があるのだと僕は思う。そんな彼ら彼女らに期待をする。日本も良い意味で変わっていくのだろうなぁと思う。

3歳になったばかりの娘の幼稚園の入園式。下駄箱で大泣きをした。ママにしがみつく娘を先生がベリベリッと剥がすように奥の部屋に連れて行った。体育館で先に父兄席に座ってみていると整列をしてピアノの伴奏で入ってきた一番前に娘がいた。もう泣いてなんていなくて、ボクたちを見つけると恥ずかしそうに小さく手を振った。

あのときを思い出す。はじめてわが子を大海に出すような不安と希望。意外に子どものほうは平気だ。隣の席のご家族もきっと明日の入園式ではそんなことを思うかもしれない。そしてあれ以来いろいろな出発はあったけれど今回の出発は同じような気持ちになった。「今度の海はちょっとばかり大きくてあれているかもしれないよ」そう思っても見守るしかできないけれど。


著者紹介

神足裕司(こうたり ゆうじ)

1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。 朝日新聞月曜朝刊「コータリンは要介護5」連載中。

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