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健康コラム

くも膜下出血から奇跡の生還を果たし、リハビリを続けながら執筆活動を行うコラムニスト・神足裕司が日常をつづっていきます。

気がつかなかった段差の謎


ボクの家の玄関から門までは10数段の階段がある。だから出かけるのには一苦労だ。いままでは車椅子ごとリフトのモーターで釣り下げて上げ下ろししていた。それも雨の日はダメだったり色々の制限もあった。それが最近壊れたのだ。

壊れて修理という段階なのだがこれまた問題が起こっている。その話はまたということにするが、とにかくそのリフトがないと一苦労が百苦労ぐらいになる。まずは人力で降ろしてくれる人を探す。ヘルパーさんだったり、介護タクシーの会社の人だったり、家族だったり。

そうしなければリハビリにも出かけられないし、取材も行けない。最小限度の外出しかしないようにしている。お願いできる人がいなければ妻ひとりではどうしてもできない。「行けない」そうなると急に世の中が遠くなったような気さえしてくる。「出ない」と「出られない」では大違いだ。

健常だったころは当たり前だけど行きたいと思えばいつでも階段を下りて表に出た。そこにはどこにでもつながる道がある。たったリフトが壊れただけで玄関は開かなくなってしまったように感じてしまう。

それでもその厚いドアを開けてくれて妻と娘が協力してお出かけを計画してくれた。「いいよ、無理しなくて。出かけなくたっていいんだから」そう何回も話したんだけど「家のなかにずっといるのもよくないよ」そういって出かけることになった。仕事に出かけて夜は妻と娘が協力して帰宅にこぎつけた。どう考えても無理がある。

みなさんはどうしているんだろうか?我が家の近くには4階建てのエレベーターのない団地があるがそういうところに住んでいる人はどうしているんだろうか?自力で階段が降りれない人は外になかなか出られない。そんな世界があることなんてまったく気にも留めていなかったなあ。

階段だけではない。外に出たら出たで車椅子で歩くにはほんのちょっとの段差も大変だ。歩道から横断歩道へ、そしてまた歩道へ上がるそこには数センチだけど段差がある。「ああ、なんでフラットじゃないんだろう」そう思う。ガッタンガッタン大変だ。

けれどある日その謎が解けた。あの段差は視覚障害者にとっては大切な印なのだそうだ。車道と歩道を分ける印。なるほどなあ、世の中っていうものは色々意味があってできているんだと感心した。少しぐらい段差があったって頑張ろう。そう思った。

ペットボトルのちょっとしたくぼみが力のない高齢者や子どもでも持ちやすくするものだったり、シャンプーとリンスのボトルにある出っ張りもふたつを区別する印だったり、世の中には気がつかない工夫がいっぱいあった。外に出られないと嘆いていたボクだったが気に留めてもいなかった世界を覗けて少しだけでも理解できてちょっと大人になったような気がしている。


著者紹介

神足裕司(こうたり ゆうじ)

1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。 朝日新聞月曜朝刊「コータリンは要介護5」連載中。

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