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健康コラム

くも膜下出血から奇跡の生還を果たし、リハビリを続けながら執筆活動を行うコラムニスト・神足裕司が日常をつづっていきます。

継承

ボクの母も爆心地からそう遠くない場所で被爆した。

被爆した翌日、女学生だった母は祖父が迎えに来てくれて変わり果てた広島の町を歩いて家まで帰ったと聞いている。もちろん家も相当な被害を受けていた。

けれど、ボク自身はそのぐらいの話しか原爆の話を母から直接聞いたことがなかった。

「話したくなかった」と晩年母はそう口にした。小学生だったボクの息子が毎年夏休みに広島に一緒に帰ってくるようになって「原爆の日」の重さが東京とちょっと違うことに気がつきボクの母に聞いた。「どんなことだったの?」と。母はいままで話さなかった原爆のことについて息子に話しはじめた。

「お父さんが工場に迎えに来てくれたんだけど、帰る道は、ここは地獄にちがいない、そう思う光景だった。川に飛び込む人、川で亡くなっている人、家はなくなって遠くまで見渡せる火事の火や焦げた臭い、そこに横たわる人。一瞬で街がなくなってしまった。昨日まで咲いていた花もみんななくなってしまった。いまでも、うなされて起きてしまうこともある」そんな話だったと記憶している。

その年から母と孫の息子は平和記念公園や原爆資料館に何回も足を運んだ。どんな話をしていたか詳しくは知らないが、何も語りたくなかった母も孫には何かを伝えなければと思っていたに違いない。

8月26日の中国新聞で「地理情報システム(GIS)」を利用して原爆被害地図を作成するという記事があった。

ボクの袋町小学校の同級生のはなしだ。本通りの「中国書店」の3代目、竹崎嘉彦くん。


竹崎嘉彦くんとボク


中国書店といえば全国的にも有名な地図の専門店だった。いまはもう残念ながらないが、昔はボクも用もないのによく店に寄った。天井から、かなり大きな航空写真かなにかの地図が額に入っていた。棚にも昔の地図が並べてあった。とにかくいろんな地図が置いてあった。ボクは地図の紙の匂いが好きだった。その地図専門店の息子が東京で学び広島に帰ってきてから今後の地図のあり方を考え大学院でも学んだ。その知識を活用していまGIS学会中国支部の主催でワークショップを行っているという。


2011年7月31日のワークショップ


午前中、広島を歩き被害や現在も残る被爆建物を実際に見たりして確かめる。被爆5日後の1945年米軍が撮っていた航空写真を国土地理院の座標と重ね合わせた航空写真を持って。今のどのあたりがどんな被害だったのか実際に目で確認できる。午後はそれをデジタル地図に落とし込んでいく。歩いてみつけた痕跡を地図にするのだ。



そして被爆者の話を聞く。証言をしてくれているのは奥本博さん。やはり同級生の父上だ。広島に昔から住んでいる家族は、両親のどちらか被爆しているとか、焼け野原からの復興をしたという祖父母がいたり、そんな方も珍しくない。けれどそんな体験者はもうみな高齢だ。実際の体験談を、どんなに悲惨なことだったか聞けることはどんどん貴重になってくる。

今年参加したのは幼稚園児から被爆体験の高齢者までと年齢層も幅ひろい。当初は1回限りの開催の予定だったがもう10年も続いているそうだ。最初、最近では自分もなにか証言を残しておきたい、と高齢者が参加してくれたことは大きい。

これからもぜひ続けていってほしい。今やらなければ希少な証言は聞けなくなってしまう。


著者紹介

神足裕司(こうたり ゆうじ)

1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。 朝日新聞月曜朝刊「コータリンは要介護5」連載中。

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